独占インタビュー公開!
カテゴリー: 独占インタビュー公開!

EXCLUSIVE INTERVIEW

聞き手・文:山田文大


般若がキャリア9枚目となるニューアルバム『グランドスラム』をリリースした。
聴き手の趣味はさておき、般若は常に最新作が最高傑作というアベレージを保つ、日本でも稀有なラッパーの一人だ。
そして、本作は確信を持ってそう書けるだけの内容の充実の一枚である。
ジャケットではファンシーな着ぐるみを着た般若が大きな被り物を脱ぎ、そこには無精髭姿、また疲労を含んだキツい眼光をこちらに向けている。
祝福の色合いの強かった前作『#バースデー』から2年、般若はなぜこのようなシリアスなアルバムを作らなければいけなかったのか。
般若史上もっとも美しく、また般若らしいアルバム『グランドスラム』について、巷で噂のラスボスに話を聞いた。



なんというか、雄弁なジャケットですね。

まぁ、あれかなっていう。でも全部聴き終わったら、結構納得いくんじゃないかな。かぶってるんじゃなくて脱いでるからね(笑)。

髭も生やしっ放しという風貌ですが…。

あれはホント…ああいう感じ。俺の中ではあれはすべては一致してる。

つまりあれが「偽らざる心境」なわけですよね。

そうだね。その通りかもしれない。あれはものすごく真面目なジャケットだよ。

どこかで必ず伺いたいことだったので、一番聞きたかったことから質問させて下さい。
5曲目「なにもない」についてですが(オーケストラを思わせるストリングスに始まり、そこにピアノの旋律が加わる。
そして般若は「ねぇ、一緒にいよう」と誰かに囁き、誰か=女は「うん、いいよ」と切なげに答える。
そして般若の「この手紙は個人に向け書いてる。後悔ないです。結果からいえばお互いが泣いてる。ねぇ、何が見えた?」という語りが続く)、いまこの時期に、なぜ、こんなシリアスな曲を作らなければいけなかったのですか?

それは…俺だからだよね。結婚して子供もいて「どうしてこの環境の中でこんなことが言えるのか?」って。
一人の表現者として、そこで止めたくはないというか、たったそれだけの気持ちなんだよ。俺の中でもこの曲はデカいからさ。
(『グランドスラム』は)この世界なんだよ。

つまり「なにもない」世界?

あれはゼロか百の問題。理解る人には理解るけど、理解らない人には理解らないっていう世界だと思う。
実際にゴクゴク近い身内にもマジで理解ができないっていう人もいたからね。俺すらもあれを歌う必要があったのかみたいな。
でも、必要だったからああやって作ったっていう。すっごい気に入ってるけどね。

わかりますが…。般若さんに対して、以前よりずっと多くの目が向いているこの時期に、これを歌うのが「らしく」もあり、う~んというかズーンとなってしまいました。

ZORNにも「どうしてなんですか?」と聞かれたし、俺自身もそう思ってる。
だけど家庭と仕事は全然別だからね。関係ないよ。俺に常識をおっかぶせてきてもそこは無駄だしさ。
みんながどういう尺度で俺という人間、般若というものを見てるか知らないけど、決して俺はスポーツマンシップにのっとってラップをやっているわけじゃないから。
とある番組で俺が誰かを挑発したり、なんでそれをやるのかと言われても、それは別に俺がやりたいことだからであって、自分の中では筋が通ってるよ。
他の人の常識を俺に諭されたところで、それは俺には関係がないというかさ。
それは俺の中で自然な、普通のことだと思ってるんだよね。ただそれだけっていうか。

この「なにもない」に限らず、いつも以上に向き合っている作品だと感じたのですが、リリースまで2年を要したのは、そういうことも関係ありますか?

これは急いで出すよりも、ある程度俺の中で折り合いをつけた段階で出そうって決めていたから、今回は曲数だったりも考えていなかったんだよね。
全体としてまぁまぁ大きなサイズ(全15曲収録。客演はR-指定のみ)になったと思う。
曲作り的なことに関しても、いわゆる16小節が3つあるような、1ヴァース、2ヴァース、3ヴァースを16小節録って、サビが8みたいな。そういうところから全部を取っ払って、すべて自分が納得のいく手法で作ったんだ。

それが般若さんらしさを感じられる大きな理由なのかもしれないですね。
やりたいことをやって形になるというのは、実はもっとも難しいことのような気もしますが。

本当は去年出したかったんだよ。
実際準備段階では2015年の夏辺りまで頭の中で準備していたんだけど、もろもろ時間がかかってしまって。
リリックも少しは書いたり、そういうことはもちろんしていたわけだけど、でも、結構書いては消してという感じだったかな。
で、少し話がズレるんだけど、まったく違うコンセプトもあって、元々は違うアルバムを作ろうとしてたんだよ。
それはいつか俺が般若としてやらなきゃいけないものだと今も思っている。
でも、それはこのタイミングでは刺さらないかもしれないと思ったんだ。そっちはもうちょっとゆっくり、いろんな人と相談しながら作っていこうと思って、今回はこういうアルバムになった。
そういう流れもあって(「フリースタイルダンジョン」で)焚巻と戦って考えることもあったし、次の日くらいに「あの頃じゃねぇ」を作ったんだ。これは、ほぼほぼ一気に書き上げた。

これは真っ直ぐに刺さるかっこいい曲ですね。

いわゆる良くも悪くも今までやりそうでやらなかった曲だよね。
本当は区切りの良い10枚目とかでやりたかったけど、それはまぁまぁまぁっていう。

一気に書き上げたと今伺ってすごい納得できましたし、出てきたタイミングで歌われるべき曲という感じはしました。
きっと違うタイミングだったら、こういうリリックにはならなかったですよね。

そうだね。

今回はミュージックビデオが5曲ありますが、「あの頃じゃねぇ」のビデオは特に素晴らしいです。
他の楽曲のMVも良かったですが、単純にそれぞれ持ち味がまったく違うので。

HAVIT ART STUDIOと作りたかったんだよね。
2日半くらいで撮って、走るシーンがやっぱり納得いかないよねって話になって、2カ月後に撮り直したりしていた。
そんなこんなで、これが一番最初の公開になった。
昔はアルバムを作って、リリース前でもライヴではみんながまだ知らない、できたばかりの新しい曲をやったりしていたんだけど、今はそれをやるとコケる風潮があるんだ。
でも、この「あの頃じゃねぇ」はでき上がってすぐ、去年からもう歌っていたんだけど、そうやって反応を見つつ、俺の中での手応えは感じてた。
なんていうんだろうな…生きてる人間と生きてる人間の確かめ合いじゃないけど、やっぱり言葉に反応してくれているのを歌っていて感じられた。
だから、この曲が中心になって『グランドスラム』全体の流れができていったというのはあるのかな。

確かに説得力というか、満場一致で押し曲は「これ」というテンションの曲ですね。
ただここまでの話の流れだと、このインタビューを読んだ人が緊張感の高いかなりシリアスな隙のない一枚みたいなものを想像してしまうかもしれないです。
なので、一応補足として、実際緊張感が高い一枚ではありますが、笑いもたくさんあるというところにも少し触れておきたいです。
もちろん黒い笑いメインですが…(笑)。

俺は人が「かっこいい」っていうものに対して「かっこいい」という気持ちをそこまで持てないっていうかさ。
俺はおもしろいことに対してかっこいいと思うんだ。
子どもの頃からそういうヘキがあって、「あの頃じゃねぇ」と「2200年」のトラックを作ったチバちゃん(CHIVA from BUZZER BEATS)もそうだし、「寝言」のタイプライターもそうなんだけど、そういう意味で2人ともおもしろいトラックを作れる。
例えば、「やっちゃった」にしたって、かっこいいトラックというよりは、おもしろいトラックじゃん?
それを作れる人ってなかなかいないんだよ。タイプは俺のそういうところを理解してくれているよね。

おもしろいことに対してかっこいいと思うのは、確かに般若さんが昔から一貫して仰っていることですね。
しかし「寝言」は、おもしろいですがひどい曲ですね(笑)。
もちろんここでいう〝ひどい〟は最高という意味ですが…

あれはやりたかった。要は人の文句を言うのは簡単なんだけど、それを何かに替えて言いたいなと考えて、ああそっか、謝罪から始めちゃえばいいんだと。
まず最初にごめんなさいと言ってしまって、全部寝言のていで、ああいうことを言っちゃえいいと思ったんだよね。
過去にいろいろ見てきたものを(笑)。

「おもしろい」という話で言えば、今回のアルバムの唯一の客演R-指定さんとの楽曲「たちがわるい」も笑える1曲です。
そもそも客演がR-指定さん一人ということからしておもしろいわけですが…

そうなんだよ。おもしろいんだよね。
別に今あいつが売れてるからどうこうじゃなくて、この題材を彼とやることにすごい意味があったんだよね。
R-指定はフリースタイルが上手いという側面からしか見られてない部分があるし、それはちょっとかわいそうだなと感じるところが正直あってさ。
だから、そうじゃなくて、最初に「女について議論しない?」って言ったら、あいつも「超やりたいっす」って感じで。
彼は風俗が好き、俺は風俗はダメっていうところから、俺が「ゴーゴーダンサーに興奮しないってことだけは本当に言いたい」と言って。
流れ的にそこの部分はあいつに譲ったんだけど、この曲で俺たちはなんか真実を歌った気がするんだよね。
〝ニトロじゃないほうのNTR〟っていうラインとかは自分の中で最強だなと思ってるんだけど。

(笑)。子供が聴いてもわからない、過激なラインですよね。

過激だね。だからやっぱり俺のラップはBGMにはならないんだよ。
一昨日、俺AKLOにアルバムを頂いたんだけど、かっけぇなって思ったんだ。
本当にラップ上手いわって思うし、俺には無理だと思ったもん(苦笑)。

先ほど般若さんにとっては「おもしろいがかっこいい」という話が出ましたが、そういう意味では、このアルバムはトピックに限らず全般おもしろいんですよね。
シリアスなトピックの曲についても、トラックのおもしろさ、アプローチの新しさにより余計にラップのおもしろさが際立っているという楽曲もある。

やっぱり全部が自分の得意なトラックでやれるんだったら、きっとほぼほぼ一日で作れると思うんだ。
趣味で作るなら、そういうものもあっていいと思うけど、やってるのが基本俺だから、新しくしていきたいという気持ちはあるんだよ。
挑戦はやっぱし続けたいよね、そこは素直に。いろんな人とやりたいなと思う。
例えば今回は三拍子の曲を作りたくて、ALI-KICKだったらやるなと思って、ワルツのようなテンポ感で作ってくれないかと言って、5、6曲渡してくれた中の、2曲が「DA MA RE」と「円」なんだけど、「円」は難しかったね。

「円」は難しそうですね。聴いていても一緒に口ずさめなかったです。
他にも「覚悟完了」も聞いていて、新しいなという印象を受けました。

「覚悟完了」の音を作ったdubby bunnyは若いんだけど、感性が独特で、その辺はなんか代替わりしていきたいんだよ。
変な意味じゃなくて、名前がある人とやってどうこうというこだわりは俺にはないよっていうか。おもしろければいいんだよね。

トラックもやはりおもしろいが最初に来るんですね。
音の聞こえの新しさという以外にも、さっきのNTRの話にしてもそうですが、「MAXっていうグループいたよね、沖縄の」(「月の真ん中」)というラインも、だからなんだという話だったりするのに、やっぱり聴いたら笑ってしまうというか。

本当に再三言うけど、それは表現方法のおもしろさなんだ。DOTAMAの『FINAL FRASH』聴いた?
あれ、ひょっとしたら2016のナンバー3には入るよ。「こんなはずじゃなかった」とか、何が正義なんだって手法を変えて言ってたり、「昔いたヒーロー、本当の敵は今の若いヒーロー」みたいな、結構深いこと言ってるなと思わされるというかさ。
DOTAMAは前からすごいと思っていたけど、表現の部分で改めてこいつすごいなと思った。
こういうラッパーがいるからこそ自分もやっていておもしろいなと思えるし。
そういうことをなんとなく考えていて、ふとしたときに「ビビりながら」ができたんだ。
自分が置かれた状況だったり、愛の中にビビりながら生きているんだなってことを感じたというか。
生き方としてビビるというのは決して恥じゃなくて、それがあったからまだ生きてられたのかなって素直に思うんだよね。
「ビビってんのかよ」と言われたら「ああ、ビビってますよ」とすぐに言えるし。
ただ、ビビってるのはおまえにじゃなくて、自分の正性格や置かれてる状況に対してだけどなっていう。
ちなみに、この曲の最後で「限りなく」じゃなくて「生きていく」にしたほうが良いんじゃないかって言ってくれたのがDJのFUMIRATCHだった。あいつはエンジニアだから結構ズバズバ言ってくれるんだよね。
「円」のラップの録り方でもアドバイスをしてくれたり。すごいですよ、彼は。

ビビるという話が出たところで、せっかくのインタビューなので、ここでアルバムから一度離れて「フリースタイルダンジョン」についても少し触れたいです。
ぶっちゃけ、ラスボスとしての立場、状況にもビビってますか?

別に俺はこれまでも負け続けてきたからっていうところもあるし、負けることは怖くないね。
今のポジションにいる自分を偉いとも思わないし。
引いた目で見れば、理想は100万円持っていく人が出なきゃいけないわけだから。
でも、こっちはこっちで負けるわけにもいかないし、むしろ他のモンスター達は相当大変だと思うよ。
ラップの可能性は無限だからまだまだ先もあると思うし。
入口は果てしなく大きく広いけど、出口はあるのかどうかすらわからない。本当にダンジョンだから。
どんどんエゲツなくなって来てるし、みんなは俺たちが負けるところ、俺がやっぱりこてんぱんにやられるところ見たいわけじゃん。
今どんなに評価されて、すげえすげえと言われても、俺が負けたら一気に引っくり返る。
そんなの昔でいうところの亀田と一緒でしょ。そこは、よくわかってるよ。

でも、インディーズのアーティストがラスボスというのは素晴らしいことですよね。

それは本当に間違いない。ライヴでは雇われ店長ですって言ってるんだけど(笑)。

だからこそ、今回のジャケットになるわけですね。
先ほど負けることは怖くないと仰っていましたが、同時にやっぱり負けるわけにはいかないという思いもある。
その状況は、般若さんにとってはヘヴィーなものですか?

軽くはないよね。軽くはないけど、自分のライヴとか日々のトレーニングのほうが辛いね。
そう考えると向き合えるっていうかさ。多分あの場で何も練習してないのって俺だけだと思うんだ。
俺はあの場で自分のルーティーンだけをやってる人間なんだ。その分、むしろトレーニングで俺は自分に向き合っている。
ただ常にイメージだけはしているのかな。それは全部に言えることだけどね。
アルバムを作るのだって、アルバムの絵が見えるかどうかで、俺は善し悪しを決める人間だから。
今回は、いろいろタイトルを考えていたんだけど、アルバムの制作が半分いかないぐらいで、いつしか自分の中で『グランドスラム』になってたね。イメージはもうそのまんま。今のこの現状って感じだよね。

『グランドスラム』という作品の絵が見えて、今回アルバムが完成したことと、現在「フリースタイルダンジョン」のラスボスでいることに相関関係はありますか? 

楽曲を作ることに関しては全然変わらないよ。だって俺は元々フリースタイルから出てきた人間だからね。
リリックが書けなくなったら、ちょっとそういう感じでやってみたり、その試行錯誤の繰り返しだったり。
そういうことをずっとやっているわけだから。iPhoneも使わずに、まだちゃんとノートにリリックを書いているし、そこは変わらないんじゃないかな。
自分で言うのもなんだけど、前作の『#バースデー』は良いアルバムだったと思うんだよね。
繰り返しになるけど、今回は俺らしいアルバムになったんじゃないかな。